※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=池田安佑美、撮影=保高幸子)
選手には2つのパターンがある。ひとつは、試合前の練習で自信をつけて本番で発揮するタイプ。もうひとつは、試合で強くなるタイプ。北東北インターハイで学校対抗戦、個人対抗戦ともに全勝で、チームも負けなしだった唯一の選手、茨城・霞ヶ浦の74kg級、山下俊介(左写真)は、この大会で試合をこなすごとに力をつけてブレークした。山下本人も、「10戦10勝できるなんて、思っていなかった」と最高の結果に驚きを隠せなかった。
2月の関東高校選抜選手権は今村聖(群馬・太田商)に大差で敗れ、6月の関東高校大会ではルーキーの白井勝太(東京・帝京)に「タックルを入らせすぎてしまった」と、1点も奪えずストレートで敗れた。同級の今村はともかく、インターハイまで残り2カ月の時点で1年生に黒星を喫してしまった山下の立場はなかった。
関東高校大会から2ヶ月間、山下を支えたのは霞ヶ浦ブランドだった。「タレントがいないから、今年は負けそう…」という声もあがる中、「自分は霞ヶ浦なんだから頑張ろうと思った」と、同校のシングレットをまとって試合にでることで自身を奮い立たせていた。
■学校対抗戦の経験で、スロースターターを返上
山下俊介のインターハイ成績
【学校対抗戦】 【個人戦】 |
その気持ちの入った試合が学校対抗戦から前面に出る。ヤマ場の秋田商戦から決勝まで、すべて逆転勝ち。準決勝の浦添工戦では、2ピリオドとも残り10秒から追いついてのラストポイントで辛勝。
決勝戦の花咲徳栄戦では、1-1で迎えた第3ピリオド、2-0とリードするが、直後に2点技を奪われてビッグポイント差で追う展開へ。残り5秒となり花咲徳栄陣営が、勝利のカウントダウンを始めるものの、山下は落ちついて、ほぼ試合終了と同時にバックポイントを奪って3-2で勝利を終え、チームスコアを3-3のタイにもっていった。学校対抗戦は84㎏級の長知宏が4勝目を挙げて霞ヶ浦の4連覇が決まった。
大沢監督は「山下は第3ピリオドになると絶対に勝てるの」と粘り勝ちは計算どおりだったようで、山下も「スタミナはあるので、後半は自信ある」と話すほど。逆に「最初は、緊張して動けないんです」と課題を挙げた。
学校対抗戦で勝負がかかってくる74㎏級を5試合経験したことで、山下の「緊張しやすい」の性格に変化が起こった。個人対抗戦では、3回戦でフルピリオド闘っただけで、残りすべてが2-0のストレート勝ち。決勝戦では、6月の関東高校大会で苦杯をなめさせられたルーキーの白井をも第1ピリオドはクリンチで、第2ピリオドは後半こん身の押し出しで1点を奪ってストレートで撃破し、全国制覇とともにリベンジも達成した。(左写真=決勝で闘う山下)
タイトルにあと一歩手が届かなかった今シーズン。下を向くことはあっても決して諦めなかった山下が、「達成感でいっぱいです」と、“一年で一番大切な大会”のインターハイで真の王者となった。