※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
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【タシュケント(ウズベキスタン)、増渕由気子】ウズベキスタン・アジア選手権、日本勢の金メダル第1号は女子55㎏級の松川知華子(ジャパンビバレッジホールディングス)だった(右写真)。決勝戦では、ヤン・チェン(中国)を飛行機投げからのフォールで押さえ込み、2006・2009年以来3度目のアジア選手権優勝を遂げると、「うれしすぎて走っていた」とマットの上で喜びを爆発させた。
「全日本選抜選手権で負けて、会社の人をはじめ、周りの人が予想以上に応援してくれたり、親身に励ましてくれたりしました。そのためにも何が何でも勝ちたかったです」と笑顔を見せた。
試練の大会だった。昨年は決勝戦で逆転負けを喫し準優勝。今年4月の全日本選抜選手権では、若い村田夏南子(JOCアカデミー/東京・安部学院高)に準決勝で敗れ3位の結果。「村田とは同じ環境で練習していて、手の内が分かっているのに…。集中力が足りず、負けたときは悔しいというより情けない気分だった」。目標としてきた吉田沙保里は松川の2歳上の先輩。「生活のすべてをレスリング中心にしている」と、ロンドン五輪を目指して今まで必死に追いかけてきたが、吉田と闘う前に10歳年下の新鋭に負けたことは精神的にきついものがあった。
決勝に進出できず、吉田沙保里(ALSOK)に挑戦することすらできずに終わった全日本選抜選手権を終えると、「毎日、何のために練習しているのかを考える毎日でした」と自問自答が続いた。
■全日本選抜選手権の敗北の払しょくを目指しての闘い
「だからこそ、この大会で優勝すれば、何かが変わるんじゃないかなと思っていた」と、初戦からガンガン攻めていった。初戦のモンゴル戦をフォールで突破すると、2回戦の韓国選手相手にストレートで快勝。準決勝も大量リードを奪う展開から手をゆるめずにフォールした。試合の組み立ても抜群で、技を2つ、3つとつなげて展開し、相手に休ませる間を与えなかった。
決勝戦の相手は中国のチェン。立ち上がりにタックルからバックポイントを奪われ、さらにアンクルホールドで失点し0-2と先制されてしまうが、「ポイントを取られると『やばい、やばい』と思ってしまうが、今回は『次は自分が取ろう』とつぶやいていた」と松川は冷静だった。
あわてずに相手との距離と縮めると、今大会好調の飛行機投げを一閃! そこからフォールへ一気に持っていって勝負を決めた。(左写真=フォール勝ちを収め、手を叩いて喜ぶ松川)
勝因は「気持ち」の一言に尽きた。「決勝の相手は昨年負けた選手と違った。本当に中国は層が厚いし、誰が出てきても力強く圧を感じてしまう。だけど、日本は吉田さん以外弱いんだって思われたくないです」。松川のプライドがアジア3度目のVをもたらしたようだ。
「もっともっと強くなってロンドン五輪に出たいです。今までその目標に向けてやってきたので絶対に出たいです!」
気持ちでアジア女王に返り咲いた松川。ロンドン五輪最終レースで意地を見せられるか―。