※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
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関東の都県持ち回りで開催される正田杯関東高校選抜大会。今年は6年ぶりに群馬県で開催され、学校対抗戦で地元の太田商が準決勝に進出。霞ヶ浦(茨城)に敗れたものの3位入賞を果たし、3月の全国高校選抜大会(新潟市)に駒を進めた。
個人戦では、学校対抗戦でもエースとして活躍した74㎏級の今村聖が圧勝で優勝。太田商として初の関東選抜王者となるとともに、全国制覇に向けて幸先のいいスタートを切った(右写真=左から大河顧問、今村、長島コーチ)。
■元全日本3位の長島正彦コーチの熱烈指導で素質が開花
新チームになって、ずば抜けた成績を残せた要因として、昨年まで切磋琢磨した群馬県王者の木村政貴(館林=専大進学予定)の存在が大きい。今村は2008年の全国中学生選手権で優勝し、翌年春に太田商期待のルーキーとして入学したエリートだが、長島正彦コーチは「入学当初、木村選手との差はとてもありました」と振り返る。試合をしても大差で敗退するなど力の差を見せ付けられたきた。(左下写真=2008年に全国中学生選手権優勝を果たした時の今村)
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全中王者の肩書きを持つ今村は、木村が卒業すれば同級で王者になる器だが、1学年上の木村に勝とうと、組み手を中心にこの1年間努力してきた。長島コーチは「あれだけ差があったのに、いつの間にか木村選手と競るようになったんです」と今村の成長に驚きを隠せない。
今村を取り巻く環境も追い風が吹いている。学校職務に追われる大河義則顧問に代わって、2年前から長島コーチが選手を密着指導。指導体制が確立されたことで、部員も過去最高の14名に増えた。長島コーチは群馬・館林高出身で、高校四冠王者~全日本学生選手権2連覇、2007年には全日本選手権フリースタイル74㎏級で3位の実績を持つ凄腕。本格的な指導に気合が入っている。木村に勝たせようと、今村とともに、試行錯誤で指導に取り組んできた。
■さえたタックルからローリングの連続攻撃
2年間で木村に勝つことはかなわなかったが、全国区の木村の背中を追いかけたことで、レベルは格段にアップし、今村はもはや関東に敵はなし。団体、個人戦ともにタックルでテークダウンを奪うと、連続ローリングで仕留める戦法で次々と得点を奪っていった。
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個人戦の決勝でも山下俊介(茨城・霞ヶ浦)を相手にローリングを中心に圧勝。高校での関東制覇は全中王者の今村でもうれしかったようで、試合終了時は笑顔で勝利ポーズを決めて見せた(右写真)。
しかしセコンド陣はテクニカルフォールを信じており、最後の一本を返さなかったことで盛り上がらずじまい。少し寂しい勝利ポーズとなってしまった。それは、チームメイト全員が今村に高い期待を寄せていることの証明でもあった。
3月の全国高校選抜大会では太田商初のセンバツ王者を視野に入れている。「油断せずに頑張りたい」と今村。「まだパワー不足」と今大会の欠点を修正して臨むつもりだ。
今村の全国制覇の夢は長島コーチの夢でもある。「今年のインターハイは岩手の宮古で行われます。私が高校時代で優勝した場所も宮古なんです。是が非でも今村を優勝させたいと思ってます」ときっぱり。長島コーチゆかりの場所で太田商初の全国王者誕生なるか―。