※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文・撮影=増渕由気子)
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正田杯関東高校選抜大会の個人戦で圧倒的強さを見せつけたのは、96㎏級・山本康稀と120㎏級・山本晋也兄弟(ともに埼玉・花咲徳栄=右写真、左が兄)。決勝では山本ワールド全開で、兄の康稀が1ピリオドでフォール、弟の晋也も2ピリオドでフォール勝ちした。
ともに全国中学校チャンピオンの肩書きを持つ。北海道のキッズクラブを経て花咲徳栄に入学。寮生活を送りながら、高校でも順調に成長してきた。
■2年連続高校三冠王を狙う兄・康稀
兄・康稀は昨年、高校2年生にして三冠王に輝き、今年は2年連続の三冠王を目指す。山本康の試合はレスリングの醍醐味がギュッと詰まっていて面白い。重量級にありがちな、四つに組んで様子を見ることは一切しない。開始早々、相手のを手をとって間合いを詰めると、両足タックルでもぐりこむ。相手は力任せにがぶってつぶそうとするが、「足から崩すのが得意」と、そこからが山本康の見せ所。自慢の走力と背筋力を使ってテークダウンへ持ち込む。
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バックポイントの1点だけでは終わらない。「アレクサンダー・カレリンのようなリフト技がカッコいい」と、フリースタイルにもかかわらず、グラウンドから豪快な3点リフトを連発。フリースタイルの醍醐味であるタックルに、グレコローマンの長所である大技にこだわる山本「ただ勝つだけじゃ嫌なんです」と笑顔で話す。
理想は「外国人選手のような闘い方」。海外の重量級は、軽量級さながらのスピードあるレスリングをする選手が頂点に立っている。96㎏級と恵まれた体格は、親からもらった体。「重量級だから、重量級らしく、がぶりからのレスリングをしろ、と言われるのが嫌で、自分から動いて攻めたいと思った」ことが原点になっている。
重量級のセオリーに反する闘い方を貫くには、それなりの補強が必要だ。「走りこんで、走力と背筋力をつけるようにしているし、練習もたくさんします」と練習の鬼となることで、タックルで突っ込めるだけの力をつけている。
2年で三冠王者となり、もはや勝つのが当たり前。モチベーションを上げるために、「初戦は調子を上げるためにも大技を出すようにした」と試合ごとに目標を掲げている。3月の全国選抜大会(新潟市)では、「優勝、そして2年連続の三冠を目指したい」ときっぱり言い切ったが、それだけでは去年と同じ。「今年は12月の全日本選手権でも活躍したい」と、すでにシニアでの闘いにも意気込みを見せた。
■弟の晋也も120㎏級で最強目指す
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弟の晋也も1年生で120㎏級を制し、全国制覇へ弾みをつけた。「最強の兄ちゃんの弟だから、僕も強くなりたい」と兄の背中を必死に追う。兄同様に、両足タックルで相手の足をさわってから勝負に持ち込むスタイル。決勝戦では第2ピリオドで正面タックルから鮮やかにフォールしてみせた。
一見、素晴らしい試合内容に見えたが、兄からすれば「全部足りない。そもそも、晋也は練習しないんですよ」と練習嫌いを暴露。その瞬間、弟は恥ずかしそうに下を向いた。兄のように練習の鬼となり、3月のセンバツで兄弟Vを成し遂げられるか-。