※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
2010年天皇杯全日本選手権の女子72kg級で優勝した浜口京子選手(ジャパンビバレッジ)が、森山泰年さんの持つ全日本選手権14度優勝(1982~95年、グレコローマン82・90kg級)の最多優勝記録に並んだ。14度の優勝を振り返ってみた。
【1996年】=70kg級
決 勝 ○[フォール、2:56]斉藤 紀江(茨城・土浦日大高)
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前年の全日本選手権は、茨城・土浦日大高柔道部でレスリングに参戦してきた斉藤紀江に屈辱のフォール負け。しかし、その後、世界選手権に初出場し(13位)、この大会の1か月前にはアジア選手権で優勝して力をつけた。リベンジ戦でもあった。
この年の全日本選手権は、アジア選手権の日程とのからみで、予選会1位の選手とアジア選手権代表選手との間で決勝が争われ、明治記念館で行うという趣向を凝らした大会となった。浜口はタックルに勢いがつきすぎて返されるなど、簡単には勝たせてもらえなかったものの、最後はパワーアップの成果を見せてきっちりフォール勝ち。4度目の全日本選手権で初めての日本一に輝いた。(5月20日、東京・明治記念館)
【1997年】=75kg級
1 回 戦 ○[フォール、0:08=3-0]石上 茜(北海道・和寒高)
決 勝 ○[7-0]住谷 礼子(東洋大)
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階級区分が変更され、浜口は「クイーン・オブ・レスリング」を目指して最重量級を選択。その最初の大会は、斉藤紀江と同じく土浦日大で柔道に親しみ、東洋大でレスリングに専念した住谷礼子が決勝の相手。しかし7-0で難なく退け、日本の最強の地位を確立した。
前年の世界選手権(70kg級)では、世界チャンピオンのクリスチン・ノードハーゲン(カナダ)に力負けすることなく闘え、世界でもやれるという手ごたえをつかんだ時期。最重量級での初の日本一は、約3か月半後の世界選手権での世界一につながった。(3月20日、東京・駒沢体育館)
【1998年】=75kg級
1 回 戦 BYE
2 回 戦 ○[フォール、0:27=7-0]野口 亜沙美(茨城・石岡一高)
決 勝 ○[フォール、0:38=3-0]佐々木 昌子(高岡法科大)
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1997年7月の世界選手権で、V5の無敵の選手、劉東風(中国)をフォールで下し、堂々の世界一へ。父・アニマル浜口さんが肩車をしたシーンはスポーツ紙の1面を飾り、これまで以上に世間的な注目も集まり始めた。
決勝は2年前と同じく明治記念館で実施。髪を金色に染めた浜口は、世界チャンピオンとして出場した初めての全日本選手権で、2試合を圧勝して優勝。抜群の強さで3年連続3度目の優勝を遂げた。(5月30~31日、東京・明治記念館)
【1999年】=75kg級
1回戦 ○[フォール、2:11=5-0]佐々木昌子(高岡法科大)
2回戦 ○[フォール、0:45=5-0]須能佳奈子(茨城・土浦日大高)
3回戦 ○[フォール、0:19=4-0]坂本恵美(茨城・土浦日大高)
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従来の春開催から、男女同時開催を視野にいれて12月開催へ(この年は、男子がシドニー五輪の世界予選のからみで11月開催となり、男女同時開催とはならなかった)。
前回の全日本選手権優勝からこの大会までの間に、98年世界選手権、99年世界選手権で優勝を重ね、押しも押されもせぬ“世界のキョウコ”へ成長した浜口は、3試合とも第1ピリオドでフォール勝ちという圧勝。堂々の4連覇を達成し、世界一の選手の強さを見せつけた。(12月22~23日、東京・代々木競技場第2体育館)
【2000年】=75kg級
決勝(初戦) ○[フォール、4:17=10-0]富岡多恵子(国士大)
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この年の世界選手権では、宿敵クリスチン・ノードハーゲン(カナダ)に敗れ、世界一を転落。再起をかける大会となった。2選手出場となった大会は、茨城・土浦日大~国士大で柔道に励み、レスリングに転向してきた富岡多恵子。
前年の国体スペシャルマッチでは1分49秒でフォールし、この年4月のジャパンクイーンズカップでも2分42秒で退けた相手だが、レスリングをしっかり練習した富岡は強くなっており、第2ピリオドへもつれてしまった。国内で第2ピリオドまでもつれたのは、97年全日本選手権決勝の住谷礼子戦以来で、その後は03年全日本選手権の斉藤紀江戦までない。
しかし、最後は地力を発揮してフォール勝ち。5連覇を達成した。(12月23日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は21~23日)
2001年】=75kg級
リーグ戦1回戦 BYE
リーグ戦2回戦 ○[フォール、0:51=4-0] 松井貴子(富山・富山一高)
リーグ戦3回戦 ○[フォール、0:11=3-0] 新海真美(滋賀・日野高)
リーグ戦4回戦 ○[フォール、0:33=3-0] 越智雅子(愛媛県協会)
リーグ戦5回戦 ○[フォール、1:32=7-0] 村島文子(中京女大)
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この年の9月、国際オリンピック委員会(IOC)が04年アテネ五輪でのレスリング女子の採用を決定。大きな目標ができたが、11月にブルガリアで行なわれた世界選手権では4位に転落。五輪種目採用決定により、他国の強化もこれまで以上になることが予想され、いばらの道が予想された。
しかし、国内では他の選手の追随を許さず、5選手参加のリーグ戦で、一番時間のかかった試合が1分32秒。文句なしの内容でアテネ五輪へのスタートを切った。(12月21~23日、東京・代々木競技場第2体育館)
【2002年】=72kg級
リーグ1回戦 ○[フォール、1:35=9-0] 新海真美(滋賀・日野高)
リーグ2回戦 ○[フォール、1:11=6-0] 田中希枝(愛知・中京女大付高)
リーグ3回戦 BYE
リーグ4回戦 ○[フォール、0:35=5-0] 松井貴子(富山・富山一高)
リーグ5回戦 ○[フォール、1:40=5-0] 村島文子(中京女大)
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アテネ五輪の女子採用によって階級区分の変更が行われ、75kg級は72kg級へ変更され、浜口にとって最適の階級となった。そんな追い風に乗り、この年の10月に行われた釜山アジア大会で圧勝優勝。11月の世界選手権で3年ぶりに世界一に輝き、順調にアテネ五輪のVロードを突っ走った。
その締めくくりの全日本選手権は、4試合をいずれも第1ピリオドでフォール勝ちするという圧勝。国内外での敵なしを見せつけた。(12月21~23日、東京・代々木競技場第2体育館)
【2003年】=72kg級
準決勝 ○[フォール、1:05=4-0] 二宮美紀(フェニックスビジネス)
決 勝 ○[フォール、4:48=10-0] 斉藤紀江(ジャパンビバレッジ)
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この年の9月にニューヨーク(マジソン・スクエア・ガーデン)で行われた世界選手権で2年連続5度目の優勝を達成。アテネ五輪の出場権を獲得した。一方、その直後にあったワールドカップでは3位に転落し、気を引き締めて臨んだ大会。
アテネ五輪での女子の実施階級は4階級であるので、67kg級の世界選手権7位だった斉藤紀江が階級を上げて挑んできた。浜口にとっては、95年の全日本選手権で土をつけられた相手だ。しかし72kg級の世界チャンピオンの実力は、1階級下の世界7位の選手の実力を大きく上回っていた。
第2ピリオドまでもつれたものの、しっかり勝って8連覇を達成。この2か月後のジャパンクイーンズカップでも斉藤を下し、アテネ五輪の代表を決めた。(12月21~22日、東京・代々木競技場第2体育館)
【2004年】=72kg級
リーグ1回戦 BYE
リーグ2回戦 ○[フォール、0:38] 田中希枝(愛知・中京女大付高)
リーグ3回戦 ○[2-0(5-0,TF6-0)] 村島文子(中京女大)
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アテネ五輪では金メダルを逃してしまったが、その後のワールドカップでも優勝。変わらない強さを見せるとともに、五輪後のさわやかな言動が受け、変わらぬ人気をキープ。注目度は依然としてレスリング界のナンバーワン。
新ルールで行われた大会。試合時間が1ピリオド2分と短くなっても、その強さは変わらず、2試合ともフルタイムにもつれることなく快勝した。9年連続優勝は、高田裕司、宮原厚次、赤石光生の8連覇を抜き、森山泰年の14連覇に次ぐ単独2位。女子では前人未到の大記録だ。(12月23日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は21~23日)
2005年】=72kg級
準決勝(初戦) ○[フォール、1P0:31(F3-0=0:31)]●榎本美希(三重・四日市四郷高)
決 勝 ○[2-0(1-0,4-0)]●村島文子(中京女大ク)
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世界選手権では無念の銀メダルに終わったが、決して実力が衰えていたわけではない。世界一奪還は目の前。休む間もなく前進を続ける浜口に、全日本選手権では「10連覇」というプレッシャーに襲われたが、地力を十分に発揮し、史上2人目の偉業を達成した。この年もまた失ポイント0の完全優勝で、1997年大会以来、9年連続でポイントを失っていないという離れ業も達成した。
10年間の実績と功績が評価され、両スタイルの最優秀選手に贈られる天皇杯を受賞。女子では3人目の快挙だった。(12月23日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は21~23日)
【2006年】=72kg級
準決勝(初戦) ○[フォール、1P1:17(F5-0)]田中希枝(中京女大)
決 勝 ○[2-0(2-0,1-0)]佐野明日香(自衛隊)
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12月にアジア大会が開催された関係で、2007年1月に実施された大会。自衛隊で柔道をやっており、レスリングに転向した佐野明日香が新たな敵として登場した。佐野は準決勝で前年2位の村島文子を逆転フォール勝ちで下して決勝進出。全日本選手権初出場にして浜口に挑んだ。
しかし、危なげない試合内容でポイントを失うことなく勝ち、11年連続優勝を達成した。(2007年1月27日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は26~28日)
【2007年】=72kg級
準決勝(初戦) ○[2-0(1-0,1-0)]鈴木博恵(立命館大)
決 勝 ○[2-0(1-0,1-0)]正田絢子(網野ク)
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この年の世界選手権で不覚を喫し、北京五輪の代表権を取れなかった浜口。再起戦となったこの大会には、63kg級で五輪出場の道が断たれた正田絢子(伊調馨が世界選手権で優勝し、五輪代表に内定したため)が、自らの階級である59kg級から見れば3階級アップして挑んできた。
正田も世界チャンピオン経験者だけに、この階級ででも実力を発揮して決勝進出。浜口に挑んだが、体重差は大きかった。浜口は正田の繰り出す技をすべてカット。スコアは1-0、1-0だったが、確実に勝って12度目の優勝。翌年春のアジア選手権での五輪出場権獲得へとつなげた。(12月23日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は21~23日)
【2009年】=72kg級
1回戦 ○[2-1(1-0,0-1,2-0)]鈴木博恵(立命館大)
決 勝 ○[2-1(1-0=2:04,0-1,1-0)]井上佳子(中京女大)
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2008年の北京五輪と世界女子選手権(東京)とで銅メダルを獲得し、休養に入った浜口。2009年春ころから活動を再開。夏にはポーランド・オープンに個人参加したあと、国内復帰戦に挑んだ。大会前に右足の親指を骨折するアクシデントに見舞われ、出場見送りの可能性もあった。
初戦の鈴木博恵戦では、第2ピリオドに1ポイントを失った。浜口が日本選手にポイントを失ったのは、1996年全日本選手権の斉藤紀江戦以来、実に13年ぶりのこと。決勝の井上佳子戦でもポイントを失い、苦しい闘いだった。しかし、地力を発揮して2試合とも勝って優勝。2年ぶりに優勝を勝ち取り、日本の第一人者の座を取り戻した。(12月23日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は21~23日)
【2010年】=72kg級
準決勝(初戦) ○[2-0(3-1,1L-1)]新海真美(アイシン・エィ・ダブリュ)
決 勝 ○[2-1(1-0,1-2,1-0=2:05)]鈴木博恵(立命館大OG)
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2012年ロンドン五輪の日本代表につながる大会。五輪では実施されない67kg級で世界選手権5位になった新海真美が、この階級に挑み、浜口の初戦で対戦した。しかし3-1、1L-1で撃破。決勝は前年の大会で、日本選手としては13年ぶりに浜口からポイントを取った鈴木博恵。2ヶ月前の世界学生選手権2位と力をつけていた。
浜口は第1ピリオドを取ったものの、第2ピリオドをタックルを返される不覚。1-2で敗れた。第3ピリオドは徹底的に守られて攻撃できず、0-0。ここでクリンチの攻撃権が浜口となり、確実にテークダウン。薄氷を踏む思いでの優勝だったが、14度目の優勝を達成し、日本タイ記録をマークした。(12月23日、東京・代々木競技場第2体育館=大会は21~23日)