※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=増渕由気子、撮影=矢吹建夫)
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次の五輪も「湯元VS高塚」の一騎打ちになるのか-。2012年ロンドン五輪に向けての日本選考争いのスタートとなった今大会の男子フリースタイル60㎏級は、2008年北京五輪最終予選プレーオフのカード、湯元健一(ALSOK)と高塚紀行(自衛隊)の対戦となった。第1ピリオドはクリンチで高塚が先制。第2ピリオドは、湯元がタックルを1本決めて取り返し、第3ピリオドは湯元がディフェンスに回ったクリンチを30秒間耐えて(左下写真)、4年ぶり3度めの全日本選手権優勝を決めた(右写真)。
北京五輪で銅メダルを獲得し、約1年休養。昨秋に復帰し、この大会にも出場したが3位どまり。本格復帰を目指した今シーズンも日本代表にはなれず、4年に1度のアジア大会にも出られなかった。復帰戦となった新潟国体では優勝したものの、「全日本選手権で勝つイメージがわかなかった」と勝ち抜くことに不安を覚えたほどだ。
それだけに、今大会の優勝は湯元の完全復活を印象付けた。湯元の気持ちを高ぶらせたのが、決勝に進出してきた高塚紀行の存在。「高塚が相手で(決勝戦が)気持ちよかった」と、北京五輪への道のりをダブらせ縁起をかついだ。「2人でまた切磋琢磨したい」。この2人の戦いが、ロンドン五輪でも熱く火花を散らしていきそうだ。
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さらに湯元を駆り立てたのが大会初日の男子フリースタイル55㎏級で優勝した弟・進一(自衛隊)存在。北京五輪までは弟の進一が湯元を追いかけている状態だったが、現在は立場が逆転。進一は国際大会で何度も優勝し、世界王者にも勝つなど第1線で活躍してきた。進一は「健一は五輪に出てるから、まだ超えてない」と必死に2年間を走り続けてきた。
兄・湯元は「もう、五輪3位なんて…。進一は事実上世界で一番だと思っている。今は、自分が進一においていかれている。悔しいですね」と苦笑い。来年の世界選手権で金メダルを取ることが、湯元の最大の目標だ。「今は、五輪出場にこだわった闘いより、世界選手権でメダルを取りたい」。そうすれば、おのずと五輪は見えてくるからだ。
永遠のライバル・高塚、そして一番の理解者である最大のライバルでもある進一に刺激されながら、湯元がロンドン五輪へギアを入れ替えた。