※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
(文=渋谷淳、撮影=矢吹建夫)
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激戦の男子フリースタイル55㎏級は予想通りの熱戦が展開された。世界選手権とアジア大会で銅メダルに輝いた稲葉泰弘(警視庁)は準決勝で2008年北京五輪銀メダリストの松永共広(ALSOK)に敗れて脱落。優勝をさらったのは、その松永を決勝で下した全日本選抜選手権覇者の湯元進一(自衛隊)だった(右写真)。
ライバルたちにリードを許していた湯元が意地を見せた。「世界選手権にもアジア大会にも出られずに悔しかった。悔しさを晴らすためにも、この大会に勝つしかない」。内に秘めていた気持ちが爆発したのは決勝戦だ。第1ピリオドは五輪メダリストのカウンターを警戒し、慎重な試合運びとなったが、勝負と決めた第2ピリオドは「自分から仕掛けていこう」という強気な姿勢でアグレッシブなレスリングを展開。鋭い片足タックルで松永の姿勢を崩すと、立て続けにポイントを挙げて勝負を決めてみせた(左下写真)。
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5月の全日本選抜選手権を制しながら、直後のプレーオフに敗れて9月の世界選手権出場を逃した。その世界選手権では、プレーオフで湯元を下した稲葉が世界王者にあと一歩と迫るレスリングを披露して銅メダル。稲葉は続く11月のアジア大会でも3位入賞を果たし、代表からもれた湯元はただ悔しさをかみしめるしかなかった。
そのうっぷんを晴らして優勝したのだから、湯元の気持ちは高まるばかりだ。対戦成績で4連敗からの2連勝を飾った松永に対しては「越えなくてはならない壁を超えることができたと思う」と自信のコメントを発し、稲葉に対しては「来年の選抜選手権で対戦することになると思うので、しっかり勝って世界選手権の座をつかみ取りたい」と“逆挑戦状”を叩きつけた。
今後は稲葉、松永の巻き返しも予想される。2012年ロンドン五輪に向けた55㎏級の争いはどこまでもヒートアップするだろう。