※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
2005年から採用されたフリースタイルのクリンチは、攻撃側が圧倒的に有利な体勢からスタートされる。詳しい数字があるわけではないが、攻撃側がポイントを取る率は8割は超えていると思われる。
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しかし、そうでない選手もいる。女子63kg級で五輪を合わせ8度目の世界一に輝いた伊調馨(ALSOK)は、クリンチの防御になってもポイントをやらない試合が多い。
調べてみると、新ルール採用以来、クリンチの防御を強いられたのは8回ある。そのうち、ポイントを取られたのは2回だけ。すなわち、防御に回っても75パーセントの確率で自らのポイントとし、ピリオドを取っている。これは驚異的な数字と言えるだろう(右写真:今年5月の山本聖子戦。伊調=赤=はクリンチからの防御を守り切り、第1ピリオドを取った)。
防御からポイントを取られたのは、2007年世界選手権4回戦の許海燕(シュ・ハイアン=中国)戦と、2008年アジア選手権準決勝のイェレナ・シャリギナ(カザフスタン)戦の2試合。
もっとも、これらの失点はかなり不可解な失点。本HPでの試合経過によると、許海燕戦は「まだこらえていると思える段階にもかかわらず1点を取られた」、シャリギナ戦は「クリンチからお尻をついただけで体は返っていないのに1点が挙がる不可解な判定で取られた」と記述されており、日本つぶしの判定という要素があったのは否めない。完全な形でポイントを取られたことは一度もないのが現実だ。
その強さの秘訣は? 伊調はこの問いに対し、「特にありません」と苦笑いした。
◎伊調馨がクリンチの防御をしいられたピリオドと、その結果
【2006年W杯予選1回戦】○ サラ・マクマン(米国)の第1ピリオド、持ち上げられながら相手の体に巻きつき1点獲得。
【2007年世界選手権4回戦】● 許海燕(中国)の第2ピリオド、テークダウンを奪われる
【2008年アジア選手権準決勝】● イェレナ・シャリギナ(カザフスタン)戦の第2ピリオド、テークダウンを奪われる
【2008年北京五輪準決勝】○ マルチン・ダグレニエ(カナダ)戦の第1ピリオド、30秒間を耐え抜いて1点獲得
【2008年北京五輪決 勝】○ アレナ・カルタショバ(ロシア)戦の第1ピリオド、30秒間を耐え抜いて1点獲得
【2009年全日本選手権決勝】○ 西牧未央戦の第2ピリオド、つぶしてバックに回り29秒で1点獲得。
【2010年全日本選抜選手権決勝】○ 山本聖子戦の第1ピリオド、30秒間を耐え抜いて1点獲得
【2010年世界選手権3回戦】○ チェン・メン戦の第1ピリオド、相手の右脚を取ってテークダウンで2点獲得。