※本記事は日本レスリング協会に掲載されていたものです。
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(文=樋口郁夫、撮影=保高幸子)
2階級で決勝へ進んだ第4日、2選手と対照的に男子フリースタイル84kg級の松本篤史(ALSOK)は初戦で無名のパキスタン選手に敗れ、早々と姿を消した。第2ピリオドこそテークダウンを2度取って2-0でものにしたものの(右写真)、第1・3ピリオドの0-0はいただけない。ともにクリンチの防御となり、勝利を手にすることはできなかった。
「(重量級担当の)小平コーチがつきっきりで指導してくれ、セコンドからアドバイスを送ってくれたのに、やってきたことを出せなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいです」と、声を絞り出した松本。クリンチを除いた6分間の闘いを見れば、ポイントを失うことなく、自らはポイントを取ったのだから、優勢だったのは松本の方だったかもしれない。
しかし、現行ルールではこれでも負けになることがある。「負け」という事実だけが残った。差して有利な体勢をつくることはあったが、それから先の攻撃がなかった。「仕掛けにいけなかった。(腕を)差しただけじゃダメです」。それは田南部力コーチも口にしていたことだ。
■自分の持ち味も含めて、すべてが中途半端へ
国内の闘いを勝ち抜いてシニアの世界に飛び出した今年。9月の世界選手権、今大会と通じて感じたことは、大会の雰囲気が日本とが違うこと。「日本ではこんなに観客が入っての試合はない」。試合前からムードに飲まれ、緊張し切った自分がいた。
緊張してしまうことは、国際大会を経験することでいくらかでも解消されるだろう。だが、それだけが負けた理由ではなく、自分のスタイルを見失ってしまっているとも感じている。やってきた技が外国選手に通じない-。コーチの指導でいろいろ取り組んできたものの、「まだすべてが中途半端。そのため、自分の持ち味だった技も中途半端になってしまっている」と分析した。
だが、初めて世界に挑む選手なら、だれもが同じような経験をしていることだろう。この段階で経験できたことは、かえってよかったとも考えられる。「この状態でオリンピック予選に出るのよりは、今、こうした経験をしたことがよかったという気持ちがあります」と言う。
そして「実力を出せないのなら、その経験が意味なくなってしまう。大舞台で実力を出せるようにしたい」とも。苦い経験となった“世界への飛躍元年”。この経験を生かし、来年は結果を出してほしい。